バレンタインデー2018 ―ボンボンショコラ大作戦―
どうも、メンヘラホイホイとメンヘラ製造機のハイブリッドです。久し振りのブログになりました。昨年のバレンタインデーで、手作りのクッキーとチョコレートを20~30人分程用意して、知り合いに配布したところ、後で高評価を頂きまして、承認欲求のアラートを発令していた空洞の私はあっという間にフル充電されました。これに味を占めてしまったは私は、再びこの一過性の充足感を味わうべく、今年もチョコレートを量産することを決意したのです。バレンタインデーから3か月が経った今、今更感を背負いながら、自分が作ったものの記録として、半ば備忘録として、これを書くことにしたのです。
構想
昨年はチョコレートクッキーをメインにしたのですが、今年はもっとスタイリッシュでチョコレートを作りたいと意気込んでいました。取り敢えず、アイディアをパクる拝借するために、天王寺や難波や梅田の百貨店で開催されていたバレンタインフェアに赴いて、実際にどのような素材やデザインがチョコレートに使われているのかを観察しました。昨年の渡せず仕舞いのチョコレートを目にしてしまって、時折悲しさに駆られたりもしました。各ブースに設置されていたフライヤーも気になったものは持って帰って、参考にしました。
スケッチを描いたりレシピを調べたりして、数日間構想を練った末、今年は6種のフレーバーのガナッシュ*1をチョコレートでコーティングした直方体のボンボンショコラを作ることにしました。それも50人分。参照した資料を基に必要な材料と量を計算し、いつも贔屓にしている製菓材料店で材料を大人買いしました。財布から1万円が飛んで行きました。チョコレートだけで2kgです。お米の量か?
方形セルクル
ガナッシュを注ぎ入れて成形するために、ステンレス製の方形のセルクル*2(底の無い枠型)が必要なのですが、割と高価です。1種類のボンボンショコラを作るならまだしも、複数の種類を同時並行で量産するとなったら、その分だけセルクルを用意しないといけないのですが、同じサイズのセルクルを何個も買うのは現実的に厳しいものがあります。ということで、厚紙で使い捨てのセルクルを作りました。チョコレートの形は多少崩れますが、安価に用意することが出来ます。
厚さ0.5mm以上の厚紙から5cm幅の長方形のパーツを4つ切り出して、15cmの間隔で切り込みを入れます。これらを井桁を組むように接合すれば、簡易の方形セルクルの完成です。使用する時は、チョコレートをそのまま流し入れてしまうと取り外す時に厚紙が付着してしまうので、セルクルの底面と両側面を覆うようなサイズに切ったクッキングシートを2枚用意し、折り目を付けて、交差に嵌め込んでから使います。
フィリング
今回作るボンボンショコラのフィリングになるガナッシュは、チョコレートとフレッシュクリーム(生クリーム)を2:1の割合で混ぜ合わせて作ります。この割合を変えることで、ガナッシュの硬さ、滑らかさを調節することが出来ます。フルーツピューレやリキュールなどの液体を加える場合は、その分フレッシュクリームの量を減らして調整します。
使用するチョコレートは、製菓材料店などで販売されているクーベルチュール*3(製菓用のチョコレート)を使用すること。チョコレートに含まれるカカオ固形分が少なすぎると、溶かしてから冷やし固める時に上手に固まりません。クーベルチュールはカカオ固形分とカカオバターの含有量が高いため、冷やすと綺麗に固まります。対して、お菓子としてそのまま食べるために作られた市販のチョコレートは、ココアバター以外の植物油脂や添加物が入っていて相対的にカカオ固形分が低いため、ガナッシュの素材としては不向きです。クーベルチュールはフレーク状のものを使用することで、チョコレートを溶かす時に均一に熱が伝わり、テンパリングで失敗しにくくなります。板状のものであれば、事前に包丁でハッシュして(細かく刻んで)おきます。包丁の刃元に近い部分を使って切ると、力が掛かりやすく、固いチョコレートでもサクサクと刻むことが出来ます。
フレッシュクリームは、脂肪分が35~45%の動物性のものを使用すること。脂肪分35%のフレッシュクリームであれば、チョコレートと合わせた時の口当たりがあっさりしていて、分離して失敗してしまうこともあまりないので、お薦めです。植物性のホイップクリーム(≠フレッシュクリーム)は、チョコレートを混ぜ合わせると分離する可能性があるので、使用は避けること。製菓用ではない市販のチョコレートとホイップクリームには植物油脂が含まれており、加熱すると分離してしまいます。
今回は複数の種類のフィリングを作りましたが、基本的な操作は共通しています。パンで沸騰する直前まで温めたフレッシュクリームを、ボウルに入れたチョコレートに注ぎます。湯煎に掛けながら、斑が出来ないように混ぜ合わせていき、全体が溶けたら、フルーツやスパイスなどを入れたらさっくり混ぜ合わせて、固まらないうちにセルクルに流し込み、冷蔵庫で2時間程度冷やします。賞味期限ですが、フレッシュクリームを使っているため、頑張れば(何を?)3日程度なら保存できますが、気にするくらいならなるべく早く食べてしまってください。以下は、各種ガナッシュの材料。
ベリーとピンクペッパー
材料 | |
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ホワイトチョコレート(クーベルチュールフレーク) | 200g |
フレッシュクリーム(乳脂肪36%) | 100ml |
ストロベリーパウダー(フリーズドライ) | 5g |
フランボワーズフレーク(フリーズドライ) | 5g |
ピンクペッパー(ホール) | 2g |
- フレッシュクリームとストロベリーパウダーは混ざりにくいため、フレッシュクリームを温める前にストロベリーパウダーと混ぜておく。パンに入れたストロベリーパウダーに生クリームを少しずつ加えて、滑らかになるまで混ぜる。生クリームを一度に入れると、だまが出来てしまい完全に混ざらないので注意する。
- ピンクペッパーとは、コショウボク(ウルシ科サンショウモドキ属)の木の実を乾燥させた香辛料の一種で、一般的な胡椒(コショウ科コショウ属)とは分類が異なる。胡椒のような刺激的な辛さは殆ど無く、爽やかな香味と仄かな甘味が持つ。加熱すると色が落ちるため、盛り付けの際に彩りを添えるために使う。様々な素材に合うため、冷菜や肉料理からスイーツまで幅広く使われる。外皮を剥くと、ホワイトペッパーになる。値段はブラックペッパーよりも割高で、2倍程度する。
パッションフルーツとペタセタ
材料 | |
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ホワイトチョコレート(クーベルチュールフレーク) | 200g |
フレッシュクリーム(乳脂肪36%) | 50ml |
パッションフルーツピューレ | 50ml |
ペタセタキャンディー | 10g |
- フレッシュクリームとパッションフルーツのピューレは予め混合しておく。その際、チョコレートとの割合の関係上、加えるピューレの分だけフレッシュクリームの量を減らすこと。
- ペタセタキャンディーとは、中に炭酸ガスが封入された粒状のキャンディーで、所謂「パチパチキャンディー」を指す。かの有名なアイスクリーム屋さんで販売されているフレーバー「ポッピングシャワー」に含まれているポップロックキャンディーがそれ。水分に触れると内部の炭酸ガスが勢いよく放出されるため、口に入れると中でパチパチと弾ける食感を楽しめる。料理で用いる場合は、水分と接触して反応することを避けるため、チョコレートやプラリネなどの油脂類と組み合わせるか、直ぐに食べることを前提としたアントレやデセールなどのトッピングに使用する。今回は、駄菓子屋で購入した子袋入りのパチパチキャンディーを使用。
抹茶とナッツ
材料 | |
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ホワイトチョコレート(クーベルチュールフレーク) | 200g |
フレッシュクリーム(乳脂肪36%) | 100ml |
抹茶(粉末) | 7g |
くるみ | 80g |
- フレッシュクリームと抹茶は混ざりにくいため、フレッシュクリームを温める前に抹茶と混ぜておく。パンに入れた抹茶に生クリームを少しずつ加えて、滑らかになるまで混ぜる。生クリームを一度に入れると、だまが出来てしまい完全に混ざらないので注意する。
- くるみは、同じクルミ科の種実であるピーカンナッツ(ペカンナッツ)で代用が可能。ナッツ類の中でも脂肪分が多く、くるみと味が似ているが独特の苦味が少ないので食べやすい。
コーティング
セルクルで冷やし固めたフィリングは、セルクルから取り外し、食べやすい大きさにカットします。今回は、1ピースが15mm×25mmになるようにそれぞれ60等分(6×10)にしました。これで60人分ですが、そのうち10ピースは頑張った自分用に。フィリングが包丁に粘着して切りにくい場合は、包丁を温めると切りやすくなります。
コイン状の上掛け用のチョコレートをボウルに入れて、50℃程度の湯煎に掛けて溶かしていきます。この時、テンパリング*4を失敗しないように気を付けましょう。電子レンジを使うと、チョコレートが焦げてしまう可能性があるので、面倒でも湯煎で溶かした方が安全です。溶かしたチョコレートにカットしたフィリングを入れ、トリュフフォーク(無ければ普通のフォークでも可)を使って、掬うように全面をコーティングしていきます。一度に複数のフィリングを入れてしまうと、コーティングしている間に他のフィリングが熱で溶けてしまうので、面倒でもひとつずつコーティングすること。コーティングしたフィリングはクッキングシートの上に並べて、チョコレートを固めていきます。冬場であれば、数分すれば表面のチョコレートは固まります。下部に流れ落ちて固まった余分なチョコレートは、ナイフでカットしておきましょう。
これでボンボンショコラの完成ですが、最後にアクセントカラーを入れます。ホワイトチョコレートにキャンディーカラー(ジェル状の油性色素)を加えて着色し、ボンボンショコラの表面にラインを付けます。粉末の食用色素だと、水溶性なので、チョコレートに添加しても溶けきれずに斑になってしまい、発色も不十分です。
配布
OPP袋に6種のボンボンショコラを並べるようにして綺麗に詰めれば完成です。袋詰めにした50人分のボンボンショコラを小さめのペーパーバッグに重ね入れて、待ってくれている人とそうでない人に届けるべく、持って行きました。事前予約をしてくれていた約15人には優先的にプレゼントし、残りは出会った知り合いに片っ端から渡していきました。ベリーとピンクペッパーが一番好評だった気がします。バニラとスパイスは、案の定、好き嫌いが分かれました。パッションフルーツとペタセタは、作ってから1日も経つと炭酸ガスが殆ど抜けていました。改良する点はあったものの、総合的には良い評価を得られたのでほっとしました。報われた気分です。
女の子からチョコレートを貰えるのではないかという諦めの悪い淡い期待を抱いては報われずに負け犬になっていたバレンタインデー。貰う側から渡す側に転向した私は、暖かい恰好をした世間のカップルたちが浮かれているこの時期に、空っぽの寒さを身の芯から感じながら、昨年も、今年も、来年も、あくせくとひとりでチョコレートを作り、作り、作るのです。「美味しい」と喜んでくれる不確かな誰かのために、「美味しい」という声に飢えた不確かな自分のために。
*1:チョコレートを生クリームなどと混ぜ合わせて、用途に応じて固さを調整したチョコレートクリーム。ガナッシュ ganache はフランス語で「顎」「間抜け」の意味。チョコレートを調理していた見習い apprenti(e) が誤って熱した生クリームを入れてしまい、シェフに飛ばされた罵声に由来。
*2:セルクル cercle は本来フランス語で「円」の意味なので、方形セルクル cercle carré は「しかくいまる」と言っているようなもの。
*3:ケーキなどの製菓の仕上げなどに使われる、脂肪分の高いチョコレートで、「クーベルチュール」couverture は、フランス語で「カバー(覆い)」意味。成分に於いて、「総カカオ固形分35%以上、カカオバター31%以上、無脂カカオ固形分2.5%以上、カカオバター以外の代用油脂は使用不可」という厳格な規定があるが、これはチョコレートに含まれる脂肪分が低いと、コーティングの際に薄く表面を「覆う」ことが出来なくなるためである。日本では、単に「製菓用のチョコレート」を指すことが多い。
*4:チョコレートに含まれるカカオバターを分解し、安定した細かい粒子に結晶させて融点を同じにするための温度調整のこと。テンパリングを行うと、艶やかな見た目になるだけでなく、柔らかく滑らかなテクスチャーに仕上がる。テンパリングに失敗すると、チョコレートの表面にブルーム(白っぽい斑や小さな斑点)が出来てしまい、口当たりや風味が劣る。