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Faites des bêtises, mais faites-les avec enthousiasme.

大学で失恋してから出会い系サイトに登録して女性と知り合った話

 またひとつ、私の片想いは呆気無く幕を閉じました。これで大学生活でもう5回目ぐらいです。どうして私が思いを寄せてしまう女の子には必ず彼氏がいるのでしょうか。恋をしている人は余計に可愛く見えてしまうからなのでしょうか。学習能力が無さすぎます、私。

 今回の片想い、相当に自分が傾倒していたこともあって、結構落ち込んでしまいました。個人的にはデートだと勝手に思い込んでいたご飯にも2回は行きました。それも、何処が良いかと何時間も思案しながら、雰囲気の良い気取らないカフェを調べに調べました。次のご飯の約束も、日は確かにしなかったけれども取り付けていました。同じ時間を一緒に過ごしていくうちに、どんどんと彼女の魅力に引き込まれていって、気が付くと自分はその人を完全な恋愛対象として見ていました。日々に辛いことがあっても、その人に会えば幸せになれる。会う度に元気付けられる。その人の声が、髪の匂いが、打ちひしがれた私を最大限にアクティヴェートする鍼の機能を持っていました。いや、最早、その人の顔を見られるだけでも十分でした。会えた日にも、会えなかった日にも、スマートフォンのバッテリーを削ってでもあの人の写真を見返していました。間違いなく、私はその人を心の支えにしていました。夢遊病みたくその人のことしか考えられなくなることもしばしばありました。自分の想いを打ち明けたい、でも、打ち明けられない。パンに溜まった水をドレインできないエアコンのようになっていきました。それでも何とか好意は形にしようと努めました。クリスマスの日には手作りのお菓子も準備して、差し上げた時には心底喜んでくれ(たように見え)ました。でも、年が明けてからは、歯車の何処かが上手く回ってくれない感じでした。話し掛けても何処かしっくりとせず、会話が空回りしている感じで、返ってくる反応にも妙なよそよそしさが滲み出ていました。その人との物理的かつ心理的な距離が、赤方偏移のように加速度を伴ってどんどんと離れていくことに恐怖を覚えました。せめて首の皮一枚だけでも繋がっていてほしい、繋ぎとめておきたい、という執着心から、バレンタインデーで畳み掛ける作戦に打って出ることにしたのです。

 バレンタインデーに女の子からチョコレートを貰えないことを理由にホワイトデー男子のストラテジーを数年前に見限ってからは、手作りチョコレートを大量生産するバレンタインデー女子のポジションに鞍替えして、毎年バレンタインデーの時期になるとあくせくお菓子を作っています。勿論、その人の分も漏れなく作りました。チョコレートを買うお金で材料を買って作った方が、費用もトータルで見ればある程度は安く分、相当な人数分を量産できるのです。そして何よりも、食べていただいた方々に手作りであることを評価していただけるのが、自分の分身が褒められたようでとても嬉しいのです。いつも有り難う御座います、富澤商店さん(私が贔屓にしている製菓材料専門店)。云々と御託を連ねていますが、この時期になると近くの百貨店ではバレンタインフェアなるものが開催されていて、実は一度も行ったことがありませんでした。しかし、用事があって偶然近くまで来たということもあり、折角だから売られている商品から何かお菓子作りのアイディアは盗めないだろうかと思って立ち寄ってみました。中くらいのひとつのフロアが全てチョコレート一色で染まっていて、吟味する群衆の殆どは女性客です。制服女子高生もお目見えできたので人混みに揉まれながらも個人的にはとてもハッピーな経験でした。自慢のチョコレートを引っ提げて全国からありとあらゆるブランドが集結しています。ショーケースの中で整列しているチョコレートはどれも正装していて今か今かと待機しています。なかなか手の届きにくいそんなチョコレートたちを転々と眺めていたら、キュートでフェミニンでファンシーな雰囲気を身に纏った、何ともまあ何とも可愛らしいチョコレートに出会ったのです。その瞬間に「ああ、この人にこれをプレゼントしたら喜んでくれるかなあ」と反射的にその人の笑顔が想像されたのです。病気ですね。女性の匂いで充満するフロアで勇気を振り絞って、その人にだけと特別にそのチョコレートを買いました。こんなことをするのは何年振りでしょうか。あまりに稀有なのでレジで待っている時には「明日雨でも降るのではないのか」と自分で疑ってしまいました。

 準備は整いました。バレンタインデーの2月14日となれば試験期間の最終日です。そのセメスターの全ての試験が終われば、サークル活動や特別な用事が無い限り、大学には来ません。でもその人は大学には来ているはずです。バレンタインデーのお菓子のことだと気付かれても良い。とにかくこれをあの人に渡したい。これがあの人の手に渡ってほしい。期待と不安が格闘する中で、平静を装ってテキストメッセージを送りました。まあ、今回も然り、高揚している時は、概して、普段のノリを意識すると余計に平常運転のレールから外れてしまうのです。でも、あの時の自分は一向に気付きません。気付けません。盲目ですから。相手から吉報が返ってくるのをただただ待つばかりです。しかし、幾らか説得しても、「忙しくて手が離せない」の一点張りで、申し訳無さそうにしながらもなかなか会って受け取ってくれようとはしませんでした。手作りのお菓子は消費期限の問題がありますし、残しても勿体無いので、諦めてその日のうちに他の人にあげました。しかし、買ったチョコレートだけは、賞味期限がまだ先でしたから、3月が来るまで何処かのタイミングで渡すことが出来ればと思い、ずっと手元に残しておきました。

 それから暫くして、3月になりました。予てから想いを寄せていたその人には彼氏がいることを知りました。人伝に知りました。同じサークルの男子だったようです。ああ、ああ、ああ、やっぱりそうだったのか、ああ。積んでいたジェンガが無情にも音を立てて崩れてきました(KAPLAではない)。さもありなんとつれなし顔を繕っていましたが、顔は引き攣っていたかもしれません。あの時のあの人の「手が離せない」という返事は私にわざと会わないための口実だったのでしょう。そりゃそうですよね。私だって可愛い女の子と付き合いたいですよ。その人だって格好良い男の人と付き合いたくって当然です。私なんかよりも、スタイル抜群で顔面高偏差値の、ハイスペックな格好良い人の方が好きに決まっていますもの。勝てっこありません。

 夜、気は滅入っていました。月を眺めてあの人を想うことも出来ない夜です。あれだけ見返していた写真も一切合切消しました。心の支えを喪失したが故に、身を預けて項垂れることも出来ない私は、床に倒れ込んでくたばっていました。呆然として、半身が床に触れている感覚さえもありませんでした。どうせ大学では無理なのだ。どうせ大学では。大学では。そうやって無限ループの思考を巡らせていくうちに、何かのずれを見出しました。ふと思い立って体を起こし、足掻けど足掻けど抜け出せなかった真空を掻き分け始めました。誰かの救いを求めるかのように動き始めました。私は、自暴自棄的に、ひとつ、ふたつ、みっつと出会い系サイトに登録し、出会い系デビューをキメてしまいました。登録したての頃は、使い方も料金システムも、右も左も解らない状態でした。合格した大学の授業の初日に、広大なキャンパスで、あっちの建物か、こっちの建物か、ときょろきょろしながら当惑する、あの感覚に近いものがありました。大学に失礼でしょうか、すみません。

 いや、しかし、出会い系サイトというのは、登録したら可愛い女の子にマッチングできて直ぐに出会える、そう簡単な世界ではありません。分かっていますか皆さん。私が出会い系サイトに飛び込んだ時に最初に扱い方に悩んだのは、出会い系サイトに付き纏うポイント制のシステムです。これが曲者です。まず、会員登録をして、必要事項を記入し、年齢確認を済ませます。これらの工程を済ませると、大体100ポイントが無料で貰えます。RPGで最初の村で餞別として回復アイテムを幾らか多めに貰えるのに似ていますよね。次に、ずらりとリスティングされた女性の写真を端から端まで舐めるようにチェックしていき、タイプの女性を選んで攻略していくわけですが、さて、そこで例のポイントが勝利を掴み取るためのキーになってくるのです。というのも、出会い系サイトにも拠りますが、例えば、気になる女性に好意を示すために「タイプ」を押すのに2ポイント、女性にメッセージを送るのに5ポイント、といった具合に、女性にアプローチする過程で行うアクションにポイントが必要になってくるのです。なので、女性とメッセージで遣り取りをする際には、如何に少ないポイント消費で連絡先の交換にまで持っていけるかという地味な心理戦に辛抱して勝たないのいけないのです。幸いなことに、プロフィールを閲覧すると足跡が残るので、相手には私が残した足跡から辿ってプロフィールまで誘き寄せて、タイプやメッセージのリアクションが来るのを待つ、といったストラテジーも、成功率こそ高くはないですが可能です。そうそう、この成功率を上げるためにも、プロフィールの入念な作成を怠ってはいけません。というのも、プロフィールは相手にアピールして惹き付けるために非常に重要なファクターになるからです。これ、就職活動と似ていて、プロフィールという名のエントリーシートの中で自分を恋人として採用するとどんなメリットがあるかを、如何に解りやすく丁寧に簡潔に十分に書いて伝えるかが大切なのです。こんなこと、出会い系サイトで気付きたくなかったですけれども。エントリーシートを完璧にした上で、御社を転々として次々と足跡を付けていき、お気に入りの女性から内定を頂く、というセオリーです。ただ、出会い系サイトによっては、女性のプロフィールを閲覧するだけで、同じ女性であっても、毎回1ポイントが必要になります。やたらめったらに女性のプロフィールを閲覧していくだけでも、あっという間にポイントが底を尽きて身動きが出来なくなってしまいます。なので、ポイントを節約するために、プロフィール検索の際に希望の女性の年齢、地域、身長、スタイル、職業などのステータスを絞り込んで設定することで、プロフィール閲覧での無駄打ちを防ぎ、効率性を高めます。また、プロフィールを閲覧する度に画面をいちいちスクリーンショットを撮ることで無駄なポイント消費を徹底的に抑えることもします。お蔭でカメラロールの中は女性のプロフィールだらけで普段の写真が埋もれて何処にあるかわからない状態です。我ながら何をしているのでしょうね本当に。これ以外にも、5ポイントと引き換えに掲示板に書き込むことで出会いの確率をアップさせたり、無料で日記や呟きに今日の出来事や自分の思っていることなどを書くことで興味を持ってもらう、なんてことも出来ます。備え付けられた機能を上手く駆使して活用することが、出会いへの近道なのです、多分。因みに、ポイントは10円=1ポイント換算で購入することが出来るのですが、当然私は非課金で攻略するつもりでした、少なくとも当初は。

 使い方も徐々に解り、立ち振る舞いも慣れてきました。新しい出会いに対する希望は膨らむばかりです。私は、根拠の無い希望的観測に突き動かされ、渇きを埋めるように、よっつ、いつつと出会い系サイトに登録していきました。最終的に、今はむっつ登録しています。六股です。塩谷瞬も吃驚です(古い)。こうして私は、むっつの出会い系サイトを並行して攻略する、六足の草鞋を履く身となりました。予定通り、足跡を残せば向こうも覗きに来てくれますし、日記を書けば何人かはコメントをしてくれます。女性からのリアクションのチェックは毎日欠かせません。でも、そこまで忙しくしているわけでもありません。1週間もすれば、複数の女性からメッセージが来るようになりました。しかし、ここで大きな壁に立ちはだかるのです。「プロフィール見ましたーもし良かったら出会いませんかー?」みたいなメッセージが女性から送られてくるので、会いたいと思った女性であれば、返信をして遣り取りします。ただ、私としては、なるべくポイントを消費したくない、即ち、メッセージは少ない手数で済ませたいのです。そこで、数ターンのとこで連絡先の交換を提案するのですが、そこでメッセージが途絶えるケースも少なくありません。「連絡先は一度会ってから交換したい」と言われれば、一応は遣り取りを続けます。すると、今度は何かしらの理由を付けて「最初だけ良いのでホテル代と別に2万円を頂けませんか?」と条件を出してくるではありませんか。私は援助交際をしたいのではありません。金銭が介在すると兎に角ややこしい。対等な関係を築きたいのです。一番吃驚したのが、「光熱費とか支払いが重なって携帯代が足りなくて、せっかく出会ったのに携帯が止まって音信不通で自然消滅は寂しいから(> <。)」という理由を持ち出してきたことですね、職を持っている人に。お前稼いでいるやろ、わしより。また、最初のメッセージでいきなりメールアドレスやLINEのIDを聞き出そうとする女性(を装った会員)もいます。アドレス収集の業者です。文面も色々と怪しくてツッコミどころが満載で、直ぐに判別がすくので相手にはしませんが。こうして、単純な男は女性との出会いたい欲求に駆られては搾取され、当初は課金するはずではなかったのに泣く泣くiTunesカードで3000円を課金し、1か月で十数ものバッドエンドを経験してきました。これ、無理ゲーなのでは。誰もが(私しかいないけれど)そう思った矢先のことです。遂に私の出会い系ライフに一筋の光が差したのです。

 女性から届いたメッセージは「足跡ありがとうございます」の一言。私も直ぐに返事をしたのですが、今までには無かった小気味良い会話に発展していきました。お互いに年齢と職業を確認します。向こうは21歳の歯科助手。プロフィールを見るとバストの欄には「Gカップ」の文字が。21歳で歯科助手でGカップ。会いたい。会ってみたい。しかし、ここでがっついてしまうと危険です。欲望を抑えて、「良い出会いは見つかりましたか?」と聞いてみると、「まだないです」という返事。ここぞとばかりに私から仕掛けました。「もし良かったら一度会ってみませんか?」と提案。すると、相手は「はい! ぜひ!」と快諾。この瞬間に、私の頭の中ではゆずの《栄光の架橋》が流れていました。ゆずに失礼ですね、すみません。早速、連絡先を交換しようと試みましたが、「一度会った時に交換したい」と言われたので、冷酷に跳ね返すことなく、素直に従いました。だって会いたいから。会えるとなれば、早速に日取りです。会うなら何日だと都合が良いか。訊いてみると、どうやら相手はゴールデンウィークが仕事休みのようだったので、お互いに都合のつく、約2週間後である5月5日にランデヴーを取り決めました。場所と時間の希望も尋ねましたが、「指定してもらったらそこに行きますよ」と言われたので、市内某所で15時に待ち合わせることになりました。会いたい、今すぐにでも会いたい。女性との遣り取りに伴うある種の駆け引きの面白さに嵌っている私が居ました。しかし、ここでひとつの疑問が芽生えたのです。これほどまですんなりと出会いの約束に漕ぎ着けられたのは、何か裏があるのではないのか。どうも怪しい。こんなに旨い話が本当にあり得るのか。否が応でも勘繰ってしまいます。二十数年の人生経験を隅々まで総動員させて、考えられる結末へのプロットを想像します。もしかしてだけど(もしかしてだけど)、もしかしてだけど(もしかしてだけど)、相手は21歳Gカップの歯科助手なんかじゃなく、ただのおっさんなんじゃないの。5月5日の15時に待ち合わせ場所に行ったらおっさんが待ち構えているんじゃないの。そういうことだろ(ジャッ)(ハットを舞台袖に飛ばす)。疑いの芽はすくすくと大きくなっていきました。花が咲ききってしまう前にあることを女性に訊いてみました。私は女性に「因みに芸能人だと誰に似ていると言われますか?」と問いかけてみました、すると、「有村架純です!」という回答が。21歳で、歯科助手で、Gカップの、有村架純……。もみたい、いや、会いたい。ということで、私は腹を括って、一縷の望みに賭けてみることにしました。取り敢えず出会ったらカフェに行こうかな。夜はあそこでご飯を食べようかな。帰りにラブホテルに行こうって言われたらどうしよう。念の為にちょっと調べておくか。へえ、フリータイムとかあるの、知らなかった。ていうかこの辺りラブホテル多くないですか。ていうか、どのラブホテルが手頃で綺麗なの。お相手との一日を想像すればするほどテンションが上がって落ち着けないこの男は単純で、馬鹿正直に段取りをして何度もイメージトレーニングをしたのです。運命の日は5月5日。祝日、こどもの日です。こどもの日に、有村架純似の21歳Gカップ歯科助手とラブホテルでこどもチャレンジ出来るかな? ヨイショォォォォォ! 私のあそこもこいのぼりのように(割愛)

 遂に当日。実は、前日に体調を崩してしまったこともあり、病み上がりの一日。最悪、もうラブホテルとかはどうでもいいから会うだけ会って連絡先だけでも交換できればミッション成功だ。今日一日の流れを細胞レヴェルでイメージしながら入念に髭を剃ります。15分掛かりました。髭だけで時間が奪われる。忙しい朝だと特に致命的。ただただ髭だけ脱毛したい。まぢでミュゼプラチナムに行きたい。私も「ENJOY, GIRLS!」してみたい。とまあ、普段からの悩みは戸棚の下に置いておいて、待ち合わせ場所に向かいました。尚、オタクであることがディスアドバンテージにならないように、スターティングメンバーの初音ミクTシャツを補欠に入れて、当たり障りの無い服をチョイスしました。万が一ラブホテルに行くようなことがあった場合を想定して、替えの衣服もバッグに入れておきました。序でに、出会った矢先で怖い人に襲われることを想定して、防犯ブザー機能のあるガラパゴス携帯もポケットに忍ばせておきました。待ち合わせ場所には、約束した時間よりも30分ほど早く到着しました。ああ、そういえばコンドームを持っていない。そう気付いて、近くの何処で買おうか思案しました。薬局か、ディスカウントストアか。いや、でもコンドームを買うにしても、レジで店員にジロジロ見られるのが恥ずかしい。18禁コーナーがあるあの書店だったら、店員と客がお互いに顔が見えないようなレジになっているから気兼ね無く買えるのに。そう考えているうちに面倒臭くなってきて、ラブホテルに誘われたらその時に買いに行くことにしました。いや、しかし、なかなかどうして、お相手がまだ来ない。何やかんやでもう約束の時間を過ぎています。別にそれは構わないのだけれども、お相手から何の連絡も無いのが不思議。普通だったら「すみません、少し遅れます(> <;)」ぐらいの連絡あっても良いものだが、そんなメッセージは一向に来ない。お相手も来ない。30分待っても来る気配は無い。これはどうしたことだろうと訝しんで、Googleで「出会い系 待ち合わせ 来ない」で調べてみた。

 キャッシュバッカーでした。すっぽかされたのです。実は、出会い系サイトでは、異性とメッセージでやりとりをすることでポイントが溜っていくのですが、それをお金に換える、謂わば「キャッシュバック」することが出来るのです。振り返ってみれば、連絡先の交換を持ち掛けた時に「一度会ってから交換したい」と返されましたが、まさかそれが伏線になっていたなどとは、出会い系初心者の私には知る由もありませんでした。出会い系サイトでは、出会い希望を謳ったキャッシュバッカーが、こうしたストラテジーで言葉巧みに男性を騙し、男性が騙されたことにようやく気付くぎりぎりのタイミングまでメールを引き延ばし、なるだけ多くのポイントを稼いでいるのです。そういう手口です。私は、キャッシュバック目当ての女性にまんまと転がされていただけだったのです。ああ、ああ、ああ、私は出汁にされたのか、ああ。積み直したジェンガが再びがらがらと崩れ落ちました(断っておくが、KAPLAではない)。あの時の「一度会ってから交換したい」から、いや、お互いの自己紹介の時から、全てのお芝居は始まっていたわけですよね。はは、皆さん、笑ってやってくださいよ、こんな愚かで哀れな私を、はは。女なんて、所詮、お金を持っているイケメンしか求めていないのだな。お金の無い不器量な私は求められなくて当然ですよね。ゴールデンウィークということもあって普段よりも多くのカップルが居ました。手を繋いで笑顔で通り過ぎていくカップルたち。私もああなるはずだったのに。ああなりたかったのに。待ち合わせ場所でちっぽけな存在の私は、生まれながらのステータスと、性に踊らされた自分の不甲斐無さを心底恨みました。一体、私はこれから何を信じて生きていけば良いのでしょうか。もうよく分からなくなってきました。近くのスターバックスでダークモカチップフラペチーノを買って帰りました。美味しかったです。スターバックスは信じられます。

 失意の中、擦り切れた私はとぼとぼと帰宅し、部屋に戻り、ベッドに腰を掛けたきり、暫くは動けませんでした。今日、本当に出会い系で出会えていたとしたら。だとしたら、身体は満たせても、果たして心まで満たせていただろうか。そうだったら、私の価値は何なのか。そして、私は相手の何に価値を見出したのか。目的と手段、議論の後先は正しかったのか。それは本当に相手に恋をし、相手を愛することだったのだろうか。それは長く続くような幸せになり得たのか、いや、単なる一過性の幸せだったのではないのか。ラブホテルで使い捨てるような愛は、真に愛と呼べるのか。私は、一体何を求めて彷徨っているのか。不可抗力の矢継ぎ早の自問自答が次第に鬱陶しくなってきて、逃れようと、机に目を遣りました。机の端の方で、好きだった人を想って買ったチョコレートの箱が、未開封のまま、まだずっと誰かを待っていました。身なりを整えて、じっと辛抱強く。それも、賞味期限は2か月前に過ぎているのに。それでも、一縷の望みに賭けて、今か今かと、まだ、ずっと、待っていました。はは、何とナンセンスなのだろうか。君の相手など、もう来やしないのに。チョコレートに同情しようとすると、チョコレートの一途さが私と重なり合って、ふと、途轍も無いスピードで過去に呼び戻されました。私が、あの時に、あの人のことを、想って、感じていた、あの充足感は、決して、取り繕った偽りなんかでは、なかったのです。幻なんかではない。私は、あの人のことが、とても、とても、好きだった、本当に、大好きだった。でも、どれだけ言っても、もう伝えられない。仮令、幻でなかったとしても、です。現実に引き戻される最後のところで、あの人の声が聞こえた気がしたのです。「それ、私のお気に入りで、凄く好きなんです」と、あの人がいつも、とびきりの可愛い笑顔で褒めてくれた。あの時の淡い想い出を留めた私の短歌が思い出されて、少し、涙を流してしまったのです。

 お菓子作りは得意なんです だから その 苦手な告白あなたからして

あの人には、幸せになってほしい。なってほしいから、もう、私と会うことが二度とありませんように。